心の瞳

19

 C-6西部商店街、先程銃声がけたたましく鳴り響いたこの地区も、今では静寂が闇を支配していた。
 
木下健太(男子6番)はまだ血のむせかえるような匂いのする通りで足を止めた。先程は集落で使えそうな物を捜していたため大まかな場所しか分からなかったがおそらく先程の銃撃と爆音はここから発せられたと見て間違いないだろう。
 健太は恐る恐る通りに入った。通りに入ってすぐの路地の行き止まりに銃撃で穴だらけになったワゴン車とその奥に体格からして
蕨洋祐(男子21番)の死体らしき物がのぞけた。
 健太はふと通りの中央に横たわるある”もの”を見つけた。それはさながら足の取れたマネキン人形のようにそこに転がっていたが流れ出す血と付近に飛び散り、こびりついた肉片は明らかにそれが元は人間であったことを克明に伝えていた。
 そして健太はそれが自分とごく近しい仲であった
立川優(男子8番)であることが分かった。その塊が優であると分かった瞬間健太力を失い、地面に膝をついた。そしてしばしの間呆然とその場にたたずんでいた。この場にとどまっていては危ないと頭脳は命令しても体は言うことを聞かなかった。

「健太?こんな所で何やってるんだ?」
 正面から軽快に走り寄ってきた
右京大輝(男子3番)の声で健太はようやく我に返った。大輝も事の顛末は知っているようで、どこか悲しい表情を浮かべていた。

 とりあえず安全な場所へ移動した方がいい、という大輝の判断で二人は商店街の端の金物屋の二階に移動した。大輝はスタートが早い事もあって既に三日は楽に過ごせる程の食料や、使えそうな武器などを集めていた。

「健太、お前井沢(井沢恵利子(女子3番))の死体は見たか?」
 不意に、大輝が質問した。明かりが月明かりしかないので表情は見えないがおそらくバスケの試合や球技大会の時のように真剣な表情であることが声を通して伝わってくる。健太がこくりと頷いたのを確認して大輝は続ける。
「お前、あれを見てどう思った?」
「どう思ったって?自殺じゃないの?」
「不自然だとは思わなかったか?飛び降りたにしてはやけに血が飛び散ってたし、よく見ると腹を切られていたし、爪も何枚かはがれてた。」

 健太は先程見た死体が脳裏に浮かび、背中に寒いものを感じた。
「それじゃあ井沢さんは・・・」
「まだ誰かが屋上にいるかもしれなかったから確認はしてないが、おそらくは誰かに殺されたとみて間違いないだろう。・・・ん、あれは・・・?」
 ふと大輝の見つめる先には、建物の陰に隠れて路地の向こうをうかがう
結城杏奈(女子21番)の姿があった。


【残り40名】

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